「美紀……?」

吐息のような呟きが磯部さんの唇からこぼれ出る。

美紀さんは自分の手のひらと目の前に座る磯部さんを交互に見つめて、自分が認識されていることに気づくと瞳を潤ませる。

「誠……一ヶ月ぶり……だね」

「信じられない……俺はお前の葬式にだって出たんだ。お墓にも行ってお参りして、今日だってお前が亡くなってちょうど一ヶ月経ったから仏壇に挨拶に……なのに、なんで……」

語尾が湿り気を帯び、完全に途切れた。

小刻みに身を震わせ、テーブルの上にぽたぽたと涙の粒を落とす。

ふたりの様子を那岐さんとキッチンから眺めていた私は、美紀さんの家に磯部さんが足を運んだ理由を聞いて不思議な縁を感じた。

今日、私が美紀さんと出会ったのも、磯部さんが美紀さんの家に行ったのも、すべてこの瞬間の逢瀬のためだと思ったのだ。


「誠、もう何度も仏壇にあいさつに来なくたっていいんだよ? 東京から通うの大変でしょう? 私はその気持ちだけで十分だよ」


テーブルの上にあった磯部さんの手に、美紀さんは自分の手を重ねる。

けれど、磯部さんは首を横に振りながら、もう離さないとばかりに美紀さんの手を強く握った。