『バカみたい…。』

そう呟く“私”は、屋上へと続く階段をゆっくりとあがっていく。

今から死ぬんだ。
断片的に戻ってきた記憶に、私はそう感じた。

今から“私”は死ぬ。
けれどその後は?
こうして私という存在がいるということは、自殺は失敗したのだろうか。
思い出せない…。

そうこう考えているうちに、“私”が屋上の扉をそっと開けた。

『…気持ちいい…。』

サァッと吹き抜けてくる風に、目の前の“私”が手を広げた。

『…飛べるかな。』

言いながら微笑むは“私”は、どこか清々しい気分のように思えた。

すべてを終わらせられる。
すべてを忘れられる。
こんな幸せなことが他にあるのだろうか?

「ないよ。」

その時の“私”は、確かにそう思ったんだ。

ゆっくりと歩みを進めて、屋上の端へとたどり着いた時、“私”は涙を流していた。

『ほんとに…バカみたい…。』

それは静香へと呟いた言葉なのか。
はたまたいじめの主犯各となった佐々木さんと宮澤さんになのか…。
いや…この時の“私”は、“私”に呟いたんだ…。
死ぬことが逃げだとは思わなかったけれど、それでも“私”は彼女たちに負けたのだと…。

思い出していく記憶は、どこか他人事だと思えるのはどうしてだろうか。

ぼんやりと、今から死ぬであろう“私”を見つめていた時だった。

バンッ!
勢いよく開いた扉に、私も目の前の“私”も、ビクッと肩を震わせて振り返った。

『なん…で…?』

そこに居た人物の姿を、私はとらえることが出来なかった。

その前に光が私を包んでいく。

あ…戻ってしまう…。

そう思ったときには、私はもう意識を手放していたのだった。