『どうするの…?』

聞き慣れた声に、私はハッと我に返る。

『いい加減答えなさい…!』

声を張り上げるその人物を、私はよく知っている。

「おか…さん…。」

椅子に座る“私”は、うつむいて何も答えない。

『どうして…あなたはいつもなにも言わないの…?そうやってずっと黙って…。あなたには意思がないの?それを伝える言葉はないの?声はないの…?!』

どうして…怒っているの…?

訳が、分からなかった。母こそが、何も言わない人だった。
小さい頃に父と離婚してから、仕事に明け暮れる毎日を送っていた母は、昔からあなたの好きなように生きなさいと、そう言って私を見ようとしない人だった。

だから私の進路だって、母は私に何を言うわけでもなく、先生に委ねたのだ。

なのに…なぜ、お母さんはこんなにも声を荒げているの?

なんで…?なんで…?



『ごめん…。』

今度は後ろから、拓真くんの声が聞こえて私は振り返る。

「…っ…」

そこはもう場面が変わっていて、学校の校舎の裏だった。

『ほんとに…ごめん…!』

なにが…?
そう言いたいのに、言葉が出てこなかった。

それだけ言って、拓真くんは走って行ってしまう。

その背中に無意識に手を伸ばすが、その瞬間に視界が歪むと、また真っ暗な世界に引き戻される。

なにが…?
なにが起きているの…?

千春に嫌われてから、私はなにがあった?
駅のホームで静香と翔くんを見てから、拓真くんの部屋に行った私はどうなった…?
どうして怒鳴った事のない母があんなにも声を荒げていたの…?
どうして拓真くんはあんなに謝っていたの…?

分からない…。
分からない…。
私は……誰を殺したの…?