記憶の欠片



ふっと覚醒したのを感じて目を開ければ、そこは見慣れぬ部屋の中だった。

シンプルであまり物が置いていない部屋の中のベッドに、“私”が涙を流しながら座っていた。

そこには私以外誰もいなかった。

ぼんやりと、私はその様子を眺める。

その時、ガチャッという音と共に、拓真くんが部屋の中へと入って来た。

ここは拓真くんの…部屋…?

なんで私は…彼の部屋に…。

『落ち着いた?』

拓真くんはそっと“私”の隣に腰掛けると、優しい声音でそう聞いていた。

その問いに、“私”がゆっくりと首を横にふる。

『そっか…。』

それだけ呟くと、拓真くんは“私”から視線を外して一点を見つめ始める。

その瞳は、どこか感情がないように思えた。

『なぁ東條。』

ポツリと、また拓真くんが呟く。

『もう全部。壊してしまおうか。』
『……?』

そんな言葉に、“私”が顔をあげて彼を見つめると、拓真くんも“私”を見つめていた。

『もう粉々に壊してしまえば、なにも無くなるんだ…。』

そっと、拓真くんが“私”の頬に触れる。
そして笑った。

『好きだよ。桜。』

ズキンッ!!!!

「っ?!」

急に激しい頭痛に襲われ、私はその場にうずくまった。

なにこれ…?
ギュッとまぶたを閉じて痛みにたえるが、それに反してどんどん頭の痛みは増していく。

「うっ…」

気が付けばボロボロ涙が溢れ出てきて、私の視界を濁していく。

ハッと思って顔を上げれば、そこにはもうなにもなくて、真っ暗な世界だった。

「…何で…?」

思い出さなきゃ…思い出さなきゃいけないのに…!

「思い出したく…ない…!」

思い出してはいけない…

私があの時殺したのは…?
持っていた包丁の刃を向けた相手は…?
誰…?私は…誰を殺した…?