「…ん…」

瞼をあげると、また散乱するオモチャが視界にうつる。

「おかえりなさい。」

何度か瞬きをしていると、いつ現れたのか翼が目の前に立っていた。

「どうですか?なにか分かってきました?」

その問いかけに、私は首を横にふった。

「分からない…。」

これからの“私”の行動を、私は予測することができない。

「まぁ次の本で、すべてがわかるかもしれません。」
「え…」

ニコッと翼は微笑むと、パチンッと指で音を鳴らした。

「っ?!」
「最後の、本です。」

今までそこにはなにもなかったのに、翼の手には1冊の真っ黒い本が現れた。

「この本の色は、あなたの心の中を表している。」
「心の中……。」

今までの本の色を思い出して、私はハッとした。

「だんだん…暗い色に…。」
「はい。最後の本は、真っ黒です。」

まっくろ…。
その本を見つめて、私は鳥肌がたつのを感じた。

「この記憶の本は、あなたが思い出したいと思ったところまで記載されている、あなたの心を反映させた本です。
この本を読み進めても、もしかしたら途中で終わってしまうかもしれない。
はたまた、あなたが“その人”を殺す記憶まで見られるかもしれない。
それらはすべて、あなたの心次第です。」

そう言って、翼は私の前に本を差し出した。

「もう一度言います。
僕はあなたに生きてほしいと思っている。
どんなに辛くても、あなたは1人じゃないから。だから恐れないで。」

「どうして…翼はそこまで私を…」

私の問い掛けに、翼は答えることなく笑った。

その笑みに、私はどこか違和感を覚える。
この笑い方…どこかで…

「残り4時間16分。さぁ、行ってらっしゃい。」

そんな考えをかき消すように、翼は無理矢理私に本を持たせる。

「っ!!?」

その瞬間、開いてもいないのに本は強い光を放ち私を覆っていく。
そして勝手にパラパラとページが開かれると、先程よりも強い光が私を覆い始めたのだった。