「あ……。」

気が付けば本の世界から戻ってきていたようだった。

「私…卒業できたんだ…。」

まるで他人事のようにそう思って、思わず口に出していた。

けれど、確実に自分の過去だということはわかった。

その証拠に、パズルのピースのように失っていた記憶たちが埋まっていく。

あの時、自分がどれだけ傷付いていたのか。

それを考えただけで、涙が出そうになるほどに胸が締め付けられる。

辛かった。
苦しかった。
短いようで、それはとても長かった。

ふと、先程の記憶の中の拓真くんが思い浮かんだ。

“諦めない。君を守るから。”

…………。

「次…進まなきゃ…。」

彼の事を考えるのは止めよう…。


それよりも、私はいったい誰を殺したのか…。

つい数時間前まで、自分が人を殺すなんてと思っていた。
でも、私にはここ何年かの記憶が曖昧だった。
あったはずなのに、思い出すことができない。

そして本を開けば、これが自分の記憶なのだとわかった。

だから…

「本当に…人を殺してしまったのかもしれない。」

きっと残りの本は、今まであった出来事よりも悲惨な事なのかもしれない。

高校2年生の時。
私には“何か”があったのだ。
それは確かにわかった。
けれど、思い出すことを拒んでいる自分がいる…。

それでも…
“あなたには生きてほしい。”

そう言った翼の声が、脳裏に過る。

「進まないといけない…。」

唇を噛み締めて、私はまた辺りを見渡す。
すると、ベッドの下に本らしき物を見つけた。

「あった。」

先程の本によく似たその本は、焦げ茶色という感じなのだろうか?
その本に手を伸ばして触れれば、やはり光が宿り始めた。

「…よし!」

パッと本を開き、私はまた本の世界へと旅立ったのだった。