フッと意識が覚醒したのを感じて目を開ければ、先程と同じ景色が目にはいる。

けれど扉のところに立つ人物に、私は絶句した。

なんで?なんであなたが…

『拓真くん…』
「拓真くん…」

私と、“私”の声が重なった。
息を切らして“私”を見つめる拓真くんは泣きそうな顔をしている。

『はぁ…待って…。東條ごめん。本当にごめん!今までごめんなさい!』

私をすり抜け、“私”の元へと駆け寄る拓真くんは崩れるように土下座をした。

『謝って許してもらえることじゃないこと分かってる!
今まで見てみぬふりして、柊の嘘に目をつぶってたのは事実だ。
でも…なにも言わない東條に、申し訳なくて…どうしていいかわからなくて…ずっと考えてたけど動けなくて…。
そしたら今日、いつもと違う東條に違和感があって…。色んなとこ探したけどいなくて…。
もしかしたらって思ってここにきたら、やっぱりいて…。』

床に頭をくつけている拓真くんの声は震えていた。
そんな彼が泣いているということはすぐにわかった。

『お願い。死なないで。俺…言えなかったけどずっと…東條のこと好きで…。こんなことを言う資格もないけど…ほんとに好きで…。生きてほしい…死なないでほしい!』

拓真くんの悲痛の叫びが、私の耳に突き刺さる。
“私”はなにも言えずにその場にしゃがみこんだ。

『…私は…嫌いだよ…!拓真くんも静香も…。佐々木さんも宮澤さんも、クラスの皆!だいっきらいだよ…!』

ボロボロと涙を溢す“私”の姿に、デジャブのように記憶がフッとよみがえる。

『私がなにしたの…?どうしてこんな目にあうの?
なんで…?私は何も言えないの?!』

その叫びは、拓真くんに投げ掛けたものではなく、自分を責めるような言葉だった。

『東條は悪くない…。悪いのは全部俺だから…。俺が…何も言わなかったから…』

『……。』

『だからこれからは…俺に東條を守らせて下さい。絶対助けるから。お願い…お願いします…!』

そんな拓真くんに、“私”はなにも言わなかった。

その時、彼を信じようとも、信じられないとも思えなかった。

“私”はその時、頭の中が真っ白になったのだ。