「ん…。」
スッと目を開ければ、先程のクローゼットがぼやけるように視界に入る。
「涙が出るほど、辛い記憶でしたか?」
いつからいたのか、私の隣に立つ翼は、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「私また…裏切られたんだ…。」
どうして私は、今まで静香と一緒にいられたんだろうか?
今までも、私が好きだと言った人と、気付いたときにはもう静香は付き合い始めていて。
“ごめん…。告白されたから、付き合うことにしちゃって…。”
申し訳ない顔で謝る彼女に、私はいつも笑いかけていた。
“しょうがないよ。選ばれたのは静香なんだから、謝る必要ないよ。”
それが何度あった?
どうして私はその時1度も怒らなかった?
静香に嫌われたくなかった?好かれていたかった?
なんで…?なんで…?
どうして私は何も言わなかったの?
どうして…
「残り17時間56分24秒。」
「っ!」
「思い出に浸るのも良いですが、時間はありませんよ。
それとも、このまま時間が過ぎるのを待って、僕に殺されることを選びますか?
あなたは1度、自殺未遂を起こしているので、死ぬ願望はあるかと思いますので。」
死ぬ…願望…。
「まぁ、それはすべてを思い出してからの方が良いかもしれないですね。」
「………。」
「とりあえず、このゲームに参加すると言った以上、あなたには最後まで勝負をしていただきたい。」
「なん…で…?」
「僕はあなたを、助けたいから。」
助けたい?
真面目な顔をして言う翼に、私はただ疑問しか生まれなかった。
「あなたを人殺しにしたくない。
あなたには生きていてほしい。」
フッと微笑んだ彼の瞳は、少しだけ揺れていた。
「僕はあなたに前に進んでほしいから。逃げてほしくない。
すべてを受け入れて、最後に選ぶあなたの選択を、僕は知っている。」
「え?」
「あなたはきっと、生きる道を選ぶんです。」
確かにそう言った翼は、今度はニッコリと微笑んだ。
「さぁ、続きを見てみて下さい。」
「うん…。」
翼の言葉に、自然と私は次の本へと歩みを進める。
最後の場面で、私はきっと“誰か”に救われるのかもしれない。
その“誰か”が誰なのかはわからない。
けれど自殺しようとした私を救ってくれる人がいる。
今度は散乱しているオモチャの中へと手を伸ばすと、すぐに本と思わしき物に触れた。
パアッとまた光が宿し始めて、紫色をしたそれをゆっくりと開いた。