玄関には、子供達と職員、シェルターに暮らす女性達も集まっていた。
「ゆう君。たくみ君。元気でね」
保育士さん達も涙をこらえて笑顔で手を振っている。

バイバイ。
私も手を振った。

それぞれの新しい両親が手を引きながら、玄関を出て行く。

その時、
「嫌だー。先生がいい-」
たくみ君が叫んで戻ってきた。

「わぁーん、嫌だ。ここが良いー」
いつも一緒にいた若い保育士さんに抱きつき、泣き叫ぶ。

「僕、ここがいい。いい子にするから、ここがいい」
「たくみ君」
保育士さんも言葉が出ない。

ゆう君はまだ分からないのか、キョトンとこちらを見ている。
その場にいた誰もが、涙した。
「たくみ君。お父さんとお母さんが待っているから、行きましょう」
みのりさんが優しく抱き上げる。

「嫌だー。嫌だよー」
泣き叫ぶたくみ君を、みのりさんは新しいお父さんに託した。

大きな腕で、ギュッとたくみ君を包み込む男性。
暴れていたたくみ君も、いつしか男性に抱きついた。

「ありがとうございました」
新しいお母さんが私達に頭を下げ、たくみ君もゆう君ももらわれていった。

胸がキュンッとして、私はボロボロと泣いてしまった。

私にはたくみ君の気持ちが分かる。
これからも色々な壁があって、乗り越えるたびに家族になっていくんだろうと思う。
でも今の私は、親の気持ちにもなってしまう。

「幸せになって欲しいですね」
愛弓ちゃんが口にした。

本当に、ただ2人の幸せを祈りたい。
そして、同時に思う。
私はなんて幸せだったんだろう。

たくみ君とゆう君を見送った私は、部屋に戻ると母さんに電話をかけた。
とにかく声が聞きたかった。

『もー、ちゃんと食べているんでしょうねえ?』
いきなり母さんの小言で始まった電話も、今はたまらなく懐かしい。
「ごめんね、母さん」
『バカね。あなたが悲しんだら、おなかの赤ちゃんも悲しくなるから、笑っていなさい』
「はい」

いつか母さんに親孝行しよう。
今まで大切に育ててもらった恩を返そう。
心の底からそう思った。