『もしもし。樹里亜?』
コールを聞くこともなく、渚が出た。

「渚・・・ごめん」
『嫌だ。絶対許さない』
やっぱり怒ってる。

でも、困るでしょ?
子供なんて出来たら、あなたが困るでしょう?
そう言いたくて言えなかった。

「ごめん。赤ちゃんができたの」
『何で謝るんだ』
いつもより強めの口調で、なんだか叱られている感じ。

「渚は、大丈夫なの?」
『何が?』
「突然子供なんかできて・・・困るでしょう?」
きっと、今頃は大騒ぎになっているだろうし。
渚に迷惑が

『ふざけるなっ』『俺は、そんなに頼りないのか?』
「そんなこと・・・」
『じゃあ、なぜ逃げる?』
「それは」
あなたの負担になりたくない。
ただ、それだけ。
それ以上の意図はない。

『今どこ?』
「・・・」
言えない。

『なあ、俺を信じろ。お前が嫌な事はしないから』
「でも・・・」
会ってしまえば、きっと渚に甘えたくなってしまう。

『まず会って話をしよう。顔を見ないと安心できない』

渚の言う事はいつも正論。
だから、負けてしまいそう。
それに、私も渚に会いたい。
この3年間いつも側にいたせいで、私は渚なしでは生きられなくなってしまった。

「本当に、渚1人で来てくれる?」
『ああ、約束する』
「大樹にも内緒よ」
『うん』

私は美樹おばさんの所にいると伝え、最寄り駅を教えた。

『なるべく早く行くから』
「うん。待ってる」

本当は今すぐにでも行きたいという渚を、みんなに分からないように来てと説得した。
今は、ちょうど交代で夏休みを取る時期だから、早めの休みを取って行くからと言ってくれた。