夜9時を回って私は帰宅した。

「おかえり」
キッチンから渚が顔を出す。
「ただいま」
私はリビングを通り過ぎて、寝室に向かった。

外出着から部屋着に着替えて、お化粧も落とす。
あー、生きかえる。
やっぱり、家が一番落ち着く。

「樹里亜、ビール飲む?」
リビングから渚の声。
「うん。いただく」

極端にアルコールに弱い私だけど、お酒は嫌いじゃない。
もちろん、数々の失敗談を持つ身としては外では飲まないことにしている。
でも、家にいるときは渚と一緒に飲むことが多い。
少しお酒の回ったあの感じだたまらない。

「お見合いだったんだろ?」
つまみに用意された枝豆に手を伸ばしながら、渚が聞く。
「うん。高校の先生で、いい人だったよ」
こんな話をしているなんて、なんか変な気分。
「そう」
気のない返事。

「いい人すぎて、一緒に住んでいる人がいるって言ってしまった」
ついバラしてしまった。
「相手は?」
「渚のことは言ってないよ。ただ、同棲しているんですって話しただけ」
「そうじゃないよ。同棲してる男がいるのにお見合いに来た樹里亜に対して、相手はどんな反応だったの?」
珍しく、身を乗り出してきた。

「友達として、また食事に行きましょうって言われた。その代わり黙っていますからって」
「なんか、下心があるんじゃないの?」
「そうかなあ?」
そんな人には見えなかった。
「ちゃんと断ったほうがいいよ」
不機嫌そうに言い、ビールを口にする。
「・・・」
私は黙ってしまった。

もし断ったら、渚のことがバレそうな気がする。
そんなことになったら、一緒に暮らせなくなる。
それは、嫌だ。
その辺のことを、渚はどう考えているんだろうか?

缶ビールを半分ほど飲んだだけなのに、すでに動けなくなっている私。
渚に抱えられて、今日も寝室に向かうことになった。