日曜日の救急外来。
待合は診察を待つ患者さんやその家族であふれている。

「すみません、後どの位待ちますか?」
小さな子供を連れた女性が、声をかけている。
ペコペコと頭を下げる受付職員。


「竹浦先生。お願いします」
処置室から声がかかった。
「はい」

「見ると、30代くらいのスーツ姿の男性」
ストレッチャーの上で、苦しそうに胸を押さえていた。
額には冷や汗。
苦渋の表情。
「心電図と胸のレントゲンを急いでください」
心臓かも・・・まずは検査。

「とにかく痛いんです。何とかしてください」
患者の訴えで、とりあえず痛み止めの注射をする。
しばらくして、患者は落ち着きを取り戻した。

「ありがとうございます。楽になりました」
起き上がり、ストレッチャーを下りようとする男性。
「待ってください。まだ横になっていてください」
心電図からも、レントゲンからも悪いものは見つかっていない。
でも、あれだけの苦しみ方はきっと何かある。

「まだ原因が分かっていません。また痛みが出ないとは限りませんから、今日は経過観察のために入院してください」
「ええっ。それは、困ります。今日は大事な商談なんです。行かないわけにはいきません」
男性は勝手に立ち上がった。

「ダメですよ。戻ってください」
「とても大切な商談なんです。会社や社員の生活に関わるんです」
男性も必死だ。

しかし、
「もし途中で何かあっても責任がとれません」
「かまいません。自分の意思で行くんです。先生や病院にはご迷惑はかけませんから」
「いや、しかし・・・」

しばらく押し問答が続いたけれど私は押し切られ、男性は帰って行った。