乳児院を訪れた私は、みのりさんの元を尋ねた。

「色々とお世話になりました」
「実家に帰るの?」
「はい」

私は渚と約束をしていた。
まずはそれぞれの両親にちゃんと話して、それから将来の話をしようと。

「樹里亜さん、おなかを触ってもいい?」
え?
突然言われて驚いたけれど、
「はい。どうぞ」

みのりさんが、そっと手を伸ばす。
優しくて、温かい手。

「渚の、子供なのね?」
「はい」

みのりさんは愛おしそうに手を当てながら、「渚のせいで苦しめてごめんなさいね」と、口にした。

違う。謝るのは私の方。
渚は何も悪くない。
ただ、私が勝手に逃げ出しただけ。

「身辺整理をして、近いうちに会いましょう」とみのりさんは言った。