「あ、あんた、何してるのよ」
その日の夕方、勤務を終えた私は自宅マンションの前で声を上げた。

「お帰り」
マンションの入り口に立つのは、妹の梨華。
「お帰りじゃないわよ。ここで何してるの?」
「お姉ちゃんを待っていたに決まってるでしょう」
はああ?

「梨華、あんた今日は会社休んだんでしょう?それなのに、フラフラ出歩いてどうするのよ」
「よく知ってるわね」
いかにもイヤそうな顔をして、梨華がマンションに入って行く。

「ほら、行くよ」
さも当然のように、梨華は中に入れろと言っている。
「イヤ、でも、いきなり来られても・・・」
困ったなあ。

幸い、渚は今夜当直でいない。
でもね〜。

「梨華、ちょっと片付けるから待ってなさい」
エレベーターを降りたところで、梨華を止めた。

しかし、
「いやよ。何で待つの?やましいことでもあるとか?」
意地悪な顔。
「別に、ないわよ」
としか言いようがない。
仕方ないなあ。

ガチャッ。
鍵を空けて、玄関へ入る。
速攻で渚の靴を下駄箱に入れ、駆け足でキッチンリビングをチェック。
ヨシッ。
大丈夫だろう。

希望的観測は往々にして覆されるとも知らず、私は梨華を部屋へと通した。