「樹里亜」
「ん?」
「おふくろから、俺のことを聞いた?」
「うん。・・・少しだけ」

大学卒業と同時に音信不通になった、バカ息子。そう言っていた。
でも、とても会いたいと。

「おやじもおふくろも、俺に沖縄の病院を継がせたかったんだ。でも、俺は嫌だった。血の繋がらない俺ではなくて、弟が継ぐべきだと思った」

ポツリ、ポツリと、今まで3年一緒にいても話してくれなかった話をする渚。
言っていることは、何となく分かる気もした。
私は女だったし、大樹もいたから違ったけれど、渚の立場なら同じ事を考えたかも知れない。

「でも、」
ふっと、遠くを見る目になる渚。

「おやじは頑固で、俺に継がせるって聞かなくてね。それで、勝手に研修先の病院を決めたんだ」
そうか、それで勘当されたのか。
「だから初めて会ったとき、お金がなかったのね」
「ああ。お前に助けてもらわなかったら、飢え死にしてたかもしれない」
冗談ぽく言っているけれど、まんざら嘘でもなさそう。

渚はお父さんのことを頑固だって言ったけれど、渚だって負けていない。
お父さんと対立して半年も仕送りを止められて、ネットカフェに泊まりながらそれでも我を通したんだもん。
私は、みのりさんが「息子と主人は似たもの同士だ」って言っていたのを思い出していた。
結局、似たもの親子って事ね。