「こんばんは」
玄関まで出て挨拶をする。
すでに美樹おばさんと話し込んでいるみのりさん。
「どうぞ上がって」
おばさんの声で、みのりさんが玄関を上がった。

あれ?
渚が出て来てない。


美樹おばさん。私。それに続いてみのりさん。
3人がリビングへと入る。
渚は立っていた。
まさに直立不動。
ん?
何、この違和感。

「こんばん・・・」
言いかけたみのりさんの言葉が止まった。
睨むように、渚を見ている。
「どうしたの?」
美樹おばさんも不安そうに声をかけた。

「樹里亜さん。この人が、赤ちゃんのお父さんなの?」
怖いくらい真面目な顔で、みのりさんが聞く。
「はい」
「この人のせいで、あなたは逃げてきたのよね?」
「ええ。まあ」

みのりさんは渚を睨んだまま。

「みのり、どうしたの?」
美樹おばさんも不思議そう。
私も美樹おばさんも状況を理解できず立ち尽くしていた。
すると、無言で渚に近づくみのりさん。
次の瞬間、
パンッ。
平手で渚を叩いた。

「みのりっ」
「みのりさん」
私と美樹おばさんの声が重なる。

しかし、みのりさんは動じることなく、
パンッ。
もう一度渚を叩いた。


「説明して」
冷静を取り戻した美樹おばさんがみのりさんに説明を求める。

しかし、みのりさんは涙ぐんでいて・・・言葉が出ない様子。

すると、
「僕が説明します」
そう言って渚が話し始めた。

「実は・・・僕の母なんです」
は、母?
え?
どういうこと?
「大学を卒業する直前に勘当されて、それ以来連絡を取っていませんでした。樹里亜から最寄り駅を聞いてまさかとは思ったんですが、本当に母に会うとは思いませんでした。お騒がせしてすみません」

じゃあ、みのりさんの音信不通の長男って・・・渚?
そんな事って・・・
「ごめん。理解が追いつかない」
私はその場に座り込んだ。

そんな中、一番先に冷静を取り戻し美樹おばさんが、
「みのり、今日は帰りなさい。樹里亜も渚君も今日は家に泊めるから。明日、ゆっくり話そう」
と言ってくれて、みのりさんは帰って行った。