「ミイ」


 愛猫のミイが病気にかかったのは一週間前だ。いや、病気だと発覚したのはたった一週間前だった。

呼吸が少し早いというただそれだけの、ちょっとした不自然さ。歳も歳だしなあと、母親とミイを病院に連れて行った。問題ないですよ、なんていう期待した返事は返ってこないで、かわりに返ってきたのは神妙な顔をした獣医師の、重たい言葉だった。

心臓の病だと。おまけに腎臓も悪いと。

 私はその時、やけに冷静だったように思う。心配そうな母の顔を見て、どうしてそんな顔をするんだろうとさえ思っていた。だって、ミイが死ぬはずがないのだ。だって、ミイは生きているのだ。ミイは、息をしているのだ。


 たった一週間前の話だ。ほんの一週間。されど一週間。
ミイにとっての最期の一週間は、いったいどんなものだっただろう。


 ミイの状態は日に日に悪くなっていった。ほんの数日前まで、いつものように生活していたはずなのに。ソファの上で気持ちよさそうにお昼寝をして、お腹がすくと家族の誰かにねだりに来て。私が自室で勉強していると、まるで見せびらかすかのように部屋のベットに飛び乗って眠りだした。猫は上から人を見下ろすのが好きらしい。私の高いベットから、私のことを見下ろして楽しんでいたのかもしれない。なんて性格の悪い猫だ。でもそんなところも可愛くて仕方がなかった。