もう嫌だ。警察にも行けず、この世からバイバイもできない弱虫のぼくは、もう自分を捨てるしかなかった。ぼくは捨てた。今までの自分を。自分らしさを。アイデンティティを。今まで培ってきた何もかもを。

 まず髪の毛を伸ばし始めた。サワより短かった髪の毛は、1年くらいで肩にかかり、高校を卒業する時には背中の中頃まで伸びていた。変化は髪の毛ばかりではない。"ぼく"とは言わず、自分自身のことを"わたし"と呼ぶようになった。ジーパンしか履かなかったのに、スカートばかりを履くようになった。もちろんメイクも覚えた。

 その変化に周囲の狼狽ぶりは半端なかった。どうした? 大丈夫? 特に両親の戸惑いは計り知れない。