一歩、二歩と後ずさり、気づけば僕は逃げ出していた。何も考えることができず、闇雲に足を動かした。

 冷静さを取り戻したのは、家のすぐ前まで来た頃だ。

 ぼくは肩を大きく上下させながら、先程の光景を思い出していた。 

 ジッポライターの火はついたままだった。ぼくは激しく首を横に振る。

 大丈夫だ。根拠もなく、頭の中でそう繰り返す。駄菓子屋の前とは言え、アスファルトの上、しかも1メートル以上も店から離れていた。あれだけ火がつきにくかったジッポだ。きっと壊れていたのがたまたま着火しただけに違いない。じきにオイルは燃え尽きて火は消えてしまうはずだ。だから大丈夫。何も起こらない。