その瞬間、ぼくは逃げた。由麻に太刀打ちなんてできないことを本能レベルで感じていた。

 その後のことは正直、よく覚えていない。気づけば、ぼくは家のすぐ近くを歩いていた。

 由麻に気づかれた。今更、そんなことを気にしていた。彼女はきっとサワに言うだろう。いつも一緒にいた子がすぐそこにいたよ。もしかしたらサワも振り返ってぼくの姿を確認していたかもしれない。

 サワにどうしてあの場所にいたかを聞かれたらどう答えよう。いや、もうサワはぼくには何も聞いてくれないのかもしれない。