「どうって……まぁ、綺麗な子って感じ?」
「受験勉強で疲れてるのかな……最近、変なんだ」
「変?」
「気づけば彼女を目で追ってる。気持ち悪いかもしれないけど、一挙手一投足、彼女の動きを見ているんだ。どうしてかよく分からないんだけど、もしかして彼女のこと好きになっちゃったのかもしれない」
「ホントに言ってるのか?」
「……多分」
その時のサワの歪んだ顔が忘れられない。
だから夜になり、リビングに一人になった時、ぼくは即座にパソコンを起動させた。
開いたのは、インターネット上で質問し、それを見た人が質問に答えてくれるサイトだ。
親友に好きな人を告白して、その際、ドン引きされてしまった。このまま親友との関係がギクシャクしてしまってらと考えたら怖くてたまらない。過ぎてしまったことは取り返しがつかない。明日からどのような態度を取ればいいのか。
そんな質問を書き込んだものの、もちろんすぐに誰かの返答が書き込まれるわけでもないから、似た質問を探してはその書き込みを読み耽った。
15分ほどそのサイトを徘徊しただろうか。何となく似たようなものはあったものの、今日の状況にピッタリなものは見つけられなかった。
その時、バスルームで母親が着替え始めた気配がした。慌ててぼくはサイトを閉じ、パソコンも落とし、何食わぬ顔で部屋に戻った。
駅前でアクビと待ち合わせをしていた。アクビはなかなかに時間にルーズなところがあるから、こんなことは日常茶飯事だ。スマホでネットサーフィンをしているうちに、ゴメンゴメンと、相変わらず小癪なほど綺麗な顔に笑顔を浮かべてアクビは現れた。
白のロングスカートに、同じく白のパーカーを着て、Gジャンを羽織っている。綺麗かっこいい服装はアクビにピッタリだ。アクビは背も高く足も長い。本当に羨ましい。
「アクビ遅い」
慣れっこだが、一応、怒ってみる。
「ヘヘ。メイクに手間取った」
わたしの性格が分かっているからアクビも気にしない。そこでアクビは一つ大きな欠伸をした。アクビのアクビたる所以だ。
「眠いわぁ。とにかく移動しよう」
アクビに促され、そそくさと行きつけのファミレスに入った。ドリンクバーとフライドポテトを頼み、お互いに飲み物を取って席に戻ってくるや否や、アクビは体を前に乗り出した。
「ねぇねぇ、アヤ。最近、谷口君とは連絡取ってないの?」
アヤ。わたしの名前だ。正確にはアヤナと言う。
「谷口君?」
その名前を耳にした途端、口の中に苦いものが広がった。
「そう。谷口健介だよ。中学の時、仲良しだったでしょ?」
胸を鷲掴みにされたかのような息苦しさに、顔が歪みそうになるのを、何とかごまかす。
「そうだっけ?」
「誰がどう見たって二人は仲良しだったでしょーが」
「そんなことないよ。何訳分かんないこと言ってるのさ。それより最近、恋愛の方はどうなのよ? 何か面白い話ないの? あるでしょ? アクビなんだから」
どうにかして話題を変えたかった。奴の話なんてしたくない。もちろん聞きたくもない。
「前の彼と分かれてから誰とも付き合ってないもん。話すことなんてなにもないよ。それより話そらさないで、ちゃんと聞いてよ。谷口君と、昨日、会ったんだ」
駅前で、ホントにバッタリ。仰々しいアクビの表情。綺麗だけど、今だけは忌々しい。
「他県の大学に通ってるんじゃなかったっけ?」
耳にした噂だと、東京の大学に通っていると聞いていた。新幹線に乗れば日帰り出来る距離だけど、だからといって決して近いわけではない。
「何でもお母さんが倒れちゃって、急遽、こっちに戻って来てるみたい。まぁ、お母さんの方は大事には至らなくって、明日には帰るみたいだけど」
今日は土曜だ。月曜からまた大学。
「ふーん、そうなんだ。大したことなくてよかったね」
敢えて気のない返事をしていた。一刻も早くアクビが飽きて違う話題になるようにと願いながら。
「まぁ、それはね。それより、会いたがってたよ、アヤに。アイツ元気してるかな。今、幸せかなって、アヤのこと気にしてた」