「えぇ、ダメだよぉ。男なんておこちゃまだから相手にすることないって。都合のいい時だけ甘えてくるし、そのくせすぐ浮気するし。部屋も散らかすわ、そのくせ片付けもしないわでいいことないって」
恋愛の話をしていたはずなのに――突然、男をディスり始めたことに、風向きが変わったような気がした。
「わたし、中学の時のアヤの感じ、いいなぁと思ってたんだ、実は。BLマンガに出てくるキャラクターみたいでさ、ドキドキした」
わたしを見る由麻の目に熱がこもっている。おかしいおかしいおかしい、何かがおかしい。
「アクビ……? どうした? どうしちゃった?」
「名案が浮かんじゃった」
「名案?」
「そう、名案。凄いやつ」
「そう……凄いんだ」
背筋を伝う冷や汗。嫌な予感。
「聞く? もちろん聞くよね? 聞いてくれるよね?」
できれば遠慮したい。そんか言葉が喉元までこみ上げてくる。でもできない。それだけの勢いが由麻にはあった。
「谷口君に向いてた目をだね、ちょこっとずらしてだね」
由麻は目の前に平行にした手を添え、顔ごと少しずらす仕草をする。
「……ず、ずらして?」
「私に向けてみるっていうのはどうかな?」
「あの……ちょっと言ってる意味が分からない」
由麻から体を離して、一歩二歩と後ずさる。
「アヤ、私の恋人になって!!」
「お前もか!!」
サワといいアクビといい、もちろん恋愛は自由だし人の価値観に口出しをする気は毛頭ない。否定もしない。でも――だからって、どうしてわたしの周囲にばかり集まってくるんだ。
完
この作品はぼくとわたしのパートが交互に続き、途中で同一人物だと分かるという展開です。
人見知りのぼくが人気者のサワに話しかけられ救われ、サワに憧れ、男の子の格好をする。
中学三年、ぼくが美人の伊藤由麻のことが気になるとサワに告白し、サワを動揺させる。
中学卒業直前にサワが下校する前の待ち合わせ場所に来なくなる。
卒業式前日、サワが由麻と一緒に下校するところを見つける。
その晩、サワとの思い出を見つけたくて近所の駄菓子屋に行く。落ちているジッポライターを見つけ、火をつける。火の消し方が分からず、ジッポを路上に放置して逃げる。その晩、駄菓子屋が火事になり、家主である吉田のお婆ちゃんが亡くなる。
自分を責めるも警察にも行けず、高校に入ると今までの自分を捨てるため、女の子の格好をするようになる。自分のことをぼくからわたしと呼ぶようになる。
由麻(アクビ)と同じ高校になり、話しかけられたことをきっかけに友達となり、大学生になっても交流は続く。
ある時、由麻はサワ(谷口)と会い、わたしをサワに会わせることを約束する。
わたしはサワに会い、わたしが火事の犯人ではないことを聞かされる。 ※サワがライターの火を消していた。
罪の意識から解放されたわたしはサワに告白するも断られる。 ※サワはゲイだった。
サワと別れた後、由麻と会う。由麻もまたサワがゲイだと知っていた。わたしがサワにフラレ、踏ん切りがつくと思い、わたしをサワに会わせた。
最後に由麻がわたしに告白する。由麻もまた同性への愛に目覚めはじめていた。
ぼく=わたし(吉田紋智・モンチ)
サワ=谷口健介
伊藤由麻=アクビ