だから一見、兄ちゃんと同じシチュエーションで同じことをすると、花穂が意識を失って、その直前の記憶が消えてしまうのかのように思えた。けれど、思い返してみても必ずしもそういうわけではない。

 むしろ、意識を失って記憶がなくなったのはその二回だけで、他はそんなことは起こらなかったのだから。 

 再現度の違いを指摘されたらそれまでなのだが、少なくとも水族館のお弁当の方がイルカのストラップよりは再現できていたと思う。

 イルカのストラップに関しては、確実に兄ちゃんのシナリオにはない展開を辿ったわけだし……。

 結局のところ、考えたところでわからないのだ。


 夏休みも残すところあと十日ほどだ。

 花穂の夏休み明けの生活のことを考えると、そろそろ記憶を取り戻してほしいところだ。しかし、一向にその気配は見えていなかった。

 水族館で倒れる前、明らかに花穂は何かを思い出したような風だったのに、その記憶ごと消えてしまったのだから仕方ない。


「何か聞いてたらそれ、再現したこと自体が引き金となって梶原さんが倒れてるんじゃなくて、再現したことで何かを思い出そうとして倒れてるんじゃねぇの?」


 まるで僕の間違えを指摘するようにあっさりとそう言ってのけたのは、天文学部の園田先輩だ。

 僕と花穂のことを心配して連絡をくれた園田先輩と、僕は昼間の喫茶店で向かい合って座っていた。