僕の使っているスマホは、兄ちゃんとは色違いで購入したもので、僕がサファイアブルー、兄ちゃんがエメラルドグリーンの色を使っていた。

 花穂が記憶をなくしてから、僕が柏木涼太としてこのサファイアブルーのカラーのスマホを使っていても、花穂は何の違和感も示していなかったというのに……。


 まさか、今度こそ兄ちゃんのことを思い出した?

 最愛だった兄ちゃんを亡くした花穂にとって、忘れている事実を知ることは恐らくとてつもなく辛いことだろう。

 両手を頭に当てて小さく唸る花穂を見ていると、こちらまで辛くなってくる。


 だけど、そこまで思い出しかけているのなら……!

 僕は少しでも花穂の心の支えになりたくて、花穂の強ばった肩に手を置く。

 それに弾かれたように顔を上げた花穂は、僕を真正面から見つめる。


「……あなたは、本当にリョウちゃん?」


 だけど、やっぱり僕じゃ花穂の力にはなれないのだろうか。

 まるで混乱してるような形相で花穂の口がそう言葉を紡いだ直後、花穂は意識を手放した。


 天文学部の合宿のときと同じだ。

 やっぱり花穂はただ眠っているだけのようで、僕はすぐそばの出口付近に並ぶベンチのひとつに、花穂を僕にもたれかからせるようにして寝かせた。

 そして、次に花穂が目を覚ましたとき、水族館に着いたあとからの記憶が、彼女の中からすっぽりと消えていた。