さすがに兄ちゃんにとっても初デートというだけあって、ぎっしり書き記してあった初デートの出来事を覚えることはなかなか大変だった。けど、ちゃんと予習をしておいて正解だったと思う。


「あ、リョウちゃん、あっちの水槽はカメが泳いでるよ! 大きいね」

「そうだな」


 花穂が指し示した先を見上げると、大きなカメがふわふわと泳いでいく。

 カメに関する説明は、特に生徒手帳の日記に記載がなかったな……。

 エイの説明をした直後ということもあり、カメについて突っ込んだことを尋ねられたらどうしようかと内心身構えたが、それについては杞憂に終わった。


《十一時三十分より、ペンギンの餌やり体験の時間になります。先着順ですので、ご希望の皆さまはお早めにペンギンの館にお越しください》

 静寂とは程遠い水族館内に女性のアナウンスが流れ、花穂が幼い子どものように目を輝かせた。


「リョウちゃん、ペンギンの餌やり体験だって!」

「じゃあ行くか?」

「うん!」


 兄ちゃんの日記から花穂の水族館でのはしゃぎぶりを読んでいたけれど、想像以上だ。

 前来たときも花穂はペンギンの餌やりをしていて、そのときもかなり興奮していたらしい。

 兄ちゃんの前だからこそ見せていたのであろう花穂の可愛らしい一面を、僕が見てもいいのかと思うと何だか少し申し訳なくもなる。

 花穂が嬉しそうに僕の手を取る。


「……あ」

「人多いし、はぐれないように?」