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 そうして、花穂と兄ちゃんの水族館初デートを再現する日がやってきた。

 まだまだ本番はこれからだというのに、すでに僕の身体は疲労感にまみれていた。

 それを吹き飛ばすように、こちらの事情を何も知らない花穂の明るい声が間近で響く。


「わぁっ! リョウちゃん、見てみて! エイの顔、笑ってるみたいだよ」

 花穂が見上げる先には、エイがこちらに腹側を見せて泳いでいる。


「ああ、確かに笑ってるみたいに見えるね。だけど、実はその目のように見えているところは、エイの鼻孔だよ」

「鼻孔? 鼻なの?」

「うん。そのはず。エイの目は反対側にちゃんと二つついてるよ。ちなみに、その口の下に見えてるのはエイのエラだよ」

「リョウちゃん、物知り」


 いくら記憶をなくしているとはいえ、さすが同じ人間だと感心した。

 というのも、今の花穂の質問は、兄ちゃんの日記替わりの生徒手帳に書き記してあったからだ。

『花穂がエイを見てはしゃいでた。あれは顔じゃなくて鼻孔だと教えたら感心された』と。

 だから、僕が物知りなのではなくて、これは全て兄ちゃんの受け売りということになる。