しかし、そんな思い込みから数ページめくったところで、僕の手は止まった。

 八月下旬にある、花穂の誕生日のところに、小さく“VL”と書いてあったからだ。


 何だろう? 何かのメモ書きみたいだけど……。

 この日は花穂の誕生日だし、誕生日プレゼントでも考えていたのかな……?


 そのとき、僕のスマホがバイブ音を立てるとともに光った。

 花穂のお母さんからだ。

 僕は、兄ちゃんの姿で花穂に会うことを了承してもらうかわりに、花穂の様子を逐一報告することになっているのだ。

 昨日、今日の合宿で、身体には何も支障はなかったものの花穂が倒れたこと、倒れる前の記憶がなくなっていることや、兄ちゃんの姿の僕に対して死なないでと取り乱したことを報告していた。そのときのことを詳しく教えてほしいという内容だった。

 花穂のお母さんからのメッセージによると、明日花穂は一度かかりつけの病院で診てもらうことにするんだそうだ。

 僕は一先ず花穂のお母さんにそのときのことを時系列で並べて書いて送信すると、明後日の水族館デートに備えることにした。


 どうやら、兄ちゃんは水族館デートには兄ちゃんお手製のお弁当持参で行ったらしい。

 これはまた、兄ちゃんみたいに多才ではない僕にとって、厳しい内容であったことは言うまでもない。