できる限りなんて言って、再現率がものすごく低い可能性だってあり得る。

 こればっかりは、どうしようもない。

 だって僕は、花穂とデートをした柏木涼太ではないのだから。

 健常な人でも時間とともに思い出は風化するとはいわれている。けれど、僕にはそれ以前に花穂と兄ちゃんのデートの思い出を持ち合わせていないのだから。

 また嘘をつくなんて、とも思った。けど、ここでできないとはっきり断ってしまえば、今の花穂にとって僕が柏木涼太である以上、花穂を傷つけてしまうような気がしたんだ。


「わかってるよ、ありがとう」


 そんな僕の苦悩も知らずに、花穂は嬉しそうに笑った。

 その後ろには、話題にするタイミングを逃してしまった夏の大三角がキラキラと輝いていた。

 *

 合宿から戻った僕は、明後日に迫った兄ちゃんの初デートである水族館デートについて、何か手がかりがないか兄ちゃんの部屋に調べに入らせてもらうことにした。

 星の本を借りたときも思ったけれど、いくらもう本人がいないとはいえ、何だか悪いことをしているみたいで気が引ける。


 兄ちゃんの部屋には、僕の部屋とお揃いのベッドと勉強机と本棚が置かれている。

 それは、本棚に入っていた本を僕が数冊借りた以外は、兄ちゃんが死んだときのままだ。