だけど、兄ちゃんと花穂がラブラブデートをした場所だと思うと、なかなか積極的に行きたいと僕は思えなかった。

 完全なる僕のわがままだった。


「……もしかして、嫌?」

 僕の複雑な心境が顔に出ていたのだろう。少し困ったような表情で、花穂は僕の顔をうかがう。


「ううん、そんなことないよ。じゃあ、合宿から帰ったら近いうちに行こうか」

「うん。あのね、そのときにお願いがあるんだけどね」

「何?」

「私が忘れてしまったリョウちゃんとの思い出のデートを、できるだけ再現してほしいの」

「……え」


 再現って言われても、そんなの不可能でしなかない。

 実際に兄ちゃんたちのデートには、当然僕は一緒に行ったわけではないから、そこに行ったという事実しかわからない。


「無理かな……?」

 本物の兄ちゃんなら、ここではきっとできる限りそれに応えると返事をするだろう。

 けれど、どう考えたって、僕にはそれを叶えることはできない。


「……忘れておいて、再現してだなんて失礼だよね。ごめんね」

 戸惑う僕を見て、花穂の願いは受け入れられなかったと判断されたのだろう。

 花穂は寂しそうに夜空を仰ぐ。

 僕はそんな花穂を見ていられなかった。


「……そんなこと、ないよ」

「え?」

「さすがに全てを再現するのは難しいけど、できる限り、再現できるところはするから……」

 さすがに再現する、とは約束できない。