自分のひとつ上の花穂は、昔から頼れるお姉さん的なところがあったものの、興奮すると途端に幼くなる。

 花穂自身の持つ性質は、記憶が失われていてもそのままのようだ。

 そんな花穂の姿が、昔に見た幼い頃の彼女の姿に重なって見えて、胸が何だか温かくてむず痒い感じになる。


 まだ、花穂に純粋に恋をしていたあの頃と同じだ。

 不毛な恋だってわかってる。

 所詮、僕は兄ちゃんの代わり。

 それに、本当のことを知られたら最後。嘘つきの僕は、間違いなく花穂のそばにはいられなくなる。


 ──だけど、やっぱり僕は花穂が好きだ。

 自分の気持ちに嘘はつけそうにない。


「そんなに必死になって、何をお願いしているの?」


 再び組んだ手をほどいて目を開ける花穂に、話題のひとつのような感覚でたずねる。

 少しためらうような素振りを見せた花穂を見て、もしかしてこの問いかけは間違いたったのかなとすぐに後悔した。


 記憶が戻らず僕と記憶探しの旅をしている花穂が願うことといえば、記憶が戻りますようにとか、そんなことを願うことは安易に想像がつく。

 だけど、花穂は僕の予想の斜め上をいく回答をしてきた。


「リョウちゃんと、ずっと一緒にいられますように」

「……え?」

 瞬時に脳裏によみがえったのは、昨夜の花穂の姿だった。