結局、いざ満天の星空を見上げると、何だか星ばっかりでなかなか夏の大三角は見つけられず、昨日はさそり座の説明ばかりになってしまった。


 さそり座の神話について話したとき、兄ちゃんのフリをした僕に抱きついてきた花穂を思い返す。

 死なないよね、そばにいて、そんな風に懇願するように訴えてきた花穂に、何て言葉を返すのが正解だったのかはわからない。

 自分が始めたこととはいえ、嘘を塗り重ねる事に慣れていっている僕自身に嫌悪すると同時に、酷く胸が痛む。

 特別あのとき、花穂が兄ちゃんのことを何か思い出したようには見えなかった。だけどあれは、花穂の深い部分では兄ちゃんのことを忘れてないからこその行動ではないか。そう思うのは、僕が都合よく解釈し過ぎてるのだろうか。


 高原に出ると、今日も天文学部の部員が望遠鏡をセットしている。


「今日こそは流れ星をちゃんと見なきゃ」

 そんな傍らで、花穂は気合いを入れるようにガッツポーズを取る。


「昨日は泣いちゃったもんね」

 実際にあのあとは流れ星どころではなく、僕たちは周りが流れ星が見えただの見えなかっただの騒ぐ中で、ひとつも流れ星を見つけることができなかった。


「もー!」

 特別茶化したつもりはなかったけど、花穂は恥ずかしそうに僕に頬を膨らませる。

 可愛すぎだろ。