「僕が……?」

「お前は今、梶原さんにとっては涼太で、梶原さんは涼太と一緒に記憶を取り戻そうとしている最中なんだから。いきなりそれをやめようなんて言われたら、何でって思うだろ、普通」

「……それもそうですね」

 僕が小さく答えると、今更のように「はい、敬語禁止!」とバシバシ背中を叩かれた。


 何だかんだ言って、園田先輩に相談して良かったんだと思う。

 僕一人だったら、きっと独りよがりの憶測に自分自身が負けてしまっていた。

 *

 二日目の今日も、日が落ちる頃からは天体観測をすることになっている。

 さすがに兄ちゃんの肩書きが天文学部となっている以上、花穂の隣で星に無知だと困る。だから僕はこの合宿までの数日間、兄ちゃんの本棚に立っていた星や神話の本を片っ端から頭に叩き込んだ。

 こんなに必死になって何かを覚えたのは、高校受験のとき以来かもしれない。

 夏の星空と思い至って、まず最初に思い浮かべたのが中学のときの理科の授業で習った夏の大三角だった。

 そして、夏の星座の代表格のさそり座。

 最低限これだけはおさえておかないと話にならないと思った。