「梶原さんが診てもらったっていう医者は、倒れた原因は貧血か寝不足って言ったんだろ? 考えすぎじゃね? 俺だってすっげー眠いときは寝る直前の記憶ってないし」

 あの前置きは何だったのかというくらい、あっさりとした返事だ。

 そんな風に思えるならとっくに思ってるよ。なんていう本音はここでは飲み込んでおく。

 この場の流れと弱い自分に負けて園田先輩に相談したけれど、はなからこうすべきだという答えが返ってくるだなんて全く思ってなかったから、いいんだけどさ。


「……そうですね、ありがとうございます」


 とりあえず形だけ軽く園田先輩に頭を下げて、この話題は切り上げてしまおうと思った矢先──バシンッと気持ちいいくらいに乾いた音が僕の背中から鳴った。

 本当のところを言うと、音と反して全く気持ちいいなんてことはなく、ただただ痛いだけなのだけど……。

 僕の背中を思いっきり平手打ちした園田先輩は、何の悪びれもない様子で真夏の太陽に照らされてケラケラと笑う。


「いつまでもそんな湿っぽい表情(かお)してる方が悪い。梶原さんが思い出したいって言ってるんだろ?」

 そのことについては、最初に今の僕たちの事情を説明する時に園田先輩に話していた。


「……はい」

「じゃあ今は悩むことねぇじゃん。むしろ、突然お前が梶原さんに対する態度を変える方が、梶原さんにとってストレスになるんじゃねぇの?」