僕たちの事情を知った園田先輩には合宿の内容や施設の様子の他に、去年の二人を見て印象的に残ったエピソードについて聞いていた。

 そのうちのひとつが、バーベキューのとき花穂の頬にバーベキューソースが付いていると言ってタオルで頬を拭うというエピソードだ。

 こんなことを言ったら、僕がまるでバーベキューソースが頬についていると嘘をついたように聞こえるかもしれないが、違う。

 作戦上そうする予定だったのだから、ただの弁解に過ぎないのだろうけど、実際に昨日、花穂は本当に頬にバーベキューソースをつけていたのだ。

 その光景に、去年は兄ちゃんの隣で同じようにバーベキューを頬張っていたのだろうなと思うと、とても微笑ましく思えた。

 兄ちゃんとの思い出を何か思い出すことで、芋づる式に何かを思い出すかもしれないと、今回去年の兄ちゃんと花穂のエピソードを再現してみた僕は、さっそく何らかの手応えが見られたのかと思った。


 だけど、そこで予期せぬ事態が起きた。

 花穂が、倒れたのだ。

 焦ったが、この施設の管理人の息子が医者で、お盆でちょうどこの施設のある実家に戻ってきているとのことで、特別に診察をしてもらえたのは不幸中の幸いだった。

 先生によると、花穂はただ眠っているだけとのことだったらしい。