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 病室を出て、僕と花穂ちゃんのお母さんは病院内の喫茶店に来ていた。

 病院の中に売店だけでなく喫茶店やら美容院まで入っているのだから、すごい。

 僕がたまに風邪をひいて行くような小さな診療所と違って、ここは大病院だからなのだろう。


「──記憶喪失、ですか」

 病院内の喫茶店の一角で、僕は、花穂ちゃんのお母さんから告げられた言葉を噛みしめるように口にした。

 きっとそうなのだろうとは思っていたから驚きはしなかった。だが、こう言葉にしてしまうと、一気に現実味を帯びてくる。


 お母さんの話によると、自分の名前や誕生日は覚えていて、日常生活に必要な読み書きや大幅な学力の低下は起こってなさそうだということだ。

 だけどそれ以外の、人との関わりや思い出に関する記憶がすっぽりと飛んでしまっているらしい。


 だから、僕のことだけでなく、花穂ちゃんのご両親のことも、兄ちゃんのことも、友達のこともみんな、今の花穂ちゃんは思い出せない状態にあるんだそうだ。

 脳の検査では異常は見られてないらしく、これといった原因はわからなかったらしい。

 事故による心因的なショックによるものではないかと精神科の先生には言われたらしいが、それも憶測の域でしかない。