頭に両手を当てて考え込んでしまう花穂ちゃんの姿に、疑惑が確信に変わった。

 花穂ちゃんは、本当に僕のことがわからないんだ……。

 そんなことって、ある……?



 花穂ちゃんと出会ったのは、僕がまだ三歳の頃だった。

 この土地に引っ越してきたばかりだった僕が、ひとつ上の兄ちゃんに連れられて、初めて近所の公園に行ったときのことだ。


 あの日、はじめましての挨拶を交わした日から、いつも花穂ちゃんは兄ちゃんと僕と一緒だった。


『ショウちゃん』


 小さい頃からよく兄ちゃんと一緒に居た僕のこともそう呼んで、花穂ちゃんは優しい笑みを向けてくれていた。

 それはいつしか、花穂ちゃんが兄ちゃんと付き合うようになってからも変わらなかった。


 僕のことを覚えてないということは、兄ちゃんのことも覚えてないのだろうか?

 忘れられてしまったこともショックだった。だが、それ以上に、花穂ちゃんは全てを忘れてしまったのではないかという恐怖がつのる。


 そのとき、まるで僕の思考を止めるかのように、背後から僕の肩に手が添えられた。

 花穂ちゃんのお母さんだ。


 どうしていいかわからないようにこちらを見ている花穂ちゃんに軽く会釈する。そして僕は花穂ちゃんのお母さんとともに黄色いカーテンの外に出た。

 他人行儀のような行動そのものが、まるで今の僕と花穂ちゃんとの距離のように思えて、辛かった。