それだけを聞くと諦めにも似た気持ちから出た言葉なのかと言われそうだが、そうじゃない。

 僕は兄ちゃんのことを認めていて、本当に尊敬しているのだ。

 さらには大好きな二人がくっついたのだから。ちょっと胸は痛むけど、二人に幸せになってほしいという気持ちに嘘はない。


「ありがとう。でも、だからって将太は僕らに遠慮しなくていいからな」

 そのあと、何かと花穂とどこか行くっていう度に僕を誘ってきてたのは、兄ちゃんなりの配慮だったのかもしれない。

 そこに関しては、完全なおせっかいでしかなかったのだが。

 ***


 花穂が青々とした桜の木を仰いでいる。

 かれこれもう十分近くこうしている。

 花穂は、何かを思い出したのかな?

 たとえば、満開の桜の木の下で兄ちゃんと付き合うことになった記憶とか……。


 やっぱり桜の木の下で何かを感じたのか。

 花穂が目を伏せたとき、彼女の頬に一筋の涙が伝った。


「花穂……?」

 思わず花穂に声をかけると、花穂は涙を拭いながら綺麗に笑う。


「ごめんね。何だか大切なことがあったような気がするのに、はっきりと思い出せなくて……」

 ドクンと自分の鼓動が大きく脈打つ。


「でもね、すごく懐かしい……」