正門から入ってすぐ、花穂が足を留めた。


「花穂……?」

 まさかさっそく何か思い出したのだろうか。

 だけど、僕の言わんとすることを悟った花穂は小さく首を横に振るだけだった。


 何だったのだろう?

 本当になんともなかったのか、そもそも僕には話すつもりはないのか、花穂は校舎の方へ歩いていく。


 お盆が近いとはいえ、屋内は文化系の部活動が行われていることから、校舎内にもすんなり入れそうだ。

 高校の校舎は、第一教棟、第二教棟、特別棟と、うちの学校には工業科が併設されているから、工業棟とある。

 少なくとも兄ちゃんも花穂も僕も普通科だから、ここは工業棟はスキップすることにしよう。


「どこからまわろうか」

 もし直感でも何か思い当たるところがあるのなら、そこは花穂が記憶を取り戻せる可能性のある場所なのかもしれない。

 特に今回は自分たちが現在通っている学校だということから、これまでの幼稚園や小学校中学校と違って自由に校舎内をまわれるし、聞いてみる価値はあるだろう。


「……うーん。中庭? あるかな?」