花穂の態度から何となく伝わってきているものの、不安な気持ちをほとんどといっていいほど彼女は口に出さない。


「幼稚園に行ったときはちょっとこじつけた感じがあったけど、今回は電車にも乗ってるし、正真正銘のデートみたいだね」


 そして自分で態度に出てしまっていることに気づいたら、こんな感じに必ずといっていいほど気を紛らわすように少しふざけた会話を振ってくる。

 それは、この一週間ほどで気がついたことだった。


 本来なら兄ちゃんに与えられているのであろう言葉に内心ドキリとしてしまう僕は、自分でもダメな奴だなと思う。

 こんな気持ち、とっくの昔に封印したはずなのに、自分で呆れてしまう。

 僕は兄ちゃんと花穂の関係を応援するんだって、二人が付き合い始めたときに決めたはずなのだから。


「そうだね。じゃあ、高校の近くに美味しいアイス屋さんがあるから、帰りにちょっと寄り道しちゃおうか」

 だから僕はそれには気がつかないフリをして、花穂に合わせてそう返した。

 *

 高校は、一番注意しなければならない。

 だってこの高校に通う生徒には、兄ちゃんのことも花穂のことも僕自身のこともかなり知られているからだ。

 特に、兄ちゃんと花穂は一年生の頃から付き合っていることから、余計に多くの生徒に知れ渡っているのだ。

 夏休み中で登校している人たちは部活に精を出している人たちばかりだから、こちらまで意識を留めていない可能性の方が高いだろう。

 だけど、どこで誰に話しかけられるかわからないから、細心の注意が必要だ。