*

 結局それ以上に花穂に変化が見られることはなく、また数日が過ぎる。

 早くも記憶探しの旅を始めて一週間近くが経とうとしていたが、一向に花穂の記憶が戻る気配はなかった。

 完全に忘れてしまっていることを思い出すのは、想像以上に難しいようだ。

 それでも、少しでも記憶を失う前のものに触れ続けることで、思いがけないものが閉ざされた記憶の引き出しを開ける引き金になるかもしれないという思いは捨てられない。


 あまり花穂を長距離移動させるのは身体に負担がかかるだろうとのことで、僕たちはことごとく近場から攻めていたものの、一通り回りきってしまった。

 初日にまわれなかった幼稚園は、その数日後に人がいるのが見えて、見学という形で入らせてもらえた。

 小学校や中学校時代によく遊びにいっていた駄菓子屋や、プール、昔秘密基地を作った場所にも足を運んだ。

 だけど、特別花穂が何かを思い出した気配はなかった。


 事故現場以上に花穂にとってインパクトのある場所じゃないといけないのだろうか。そうなると、かなり難題のような気がするのは気のせいじゃないと思う。