不安そうに僕の手を引いて、突然その場に立ち止まったのだ。


「どうしたの? しんどくなった?」

「あ。ううん、大丈夫……」


 僕を引き留めておきながら、花穂は戸惑うように首を横に振る。

 言葉と裏腹に、とてもじゃないけど花穂は大丈夫そうには見えない。


 どういうわけか、花穂の視線は少し先の一点に定められているように見える。

 何だろうと僕は花穂の視線の先をたどる。その先を見て、ドクンと心臓がいやな音を立てた。だけど、それと同時に合点した。

 そこにあったのは、お祭りのあった公園へと続く路地だったのだから。

 ここから遠目に、公園のフェンスが見えていたんだ。


 花穂が事故のショックで記憶をなくしているのなら、事故現場の公園は刺激が強すぎるだろうと思って、後回しにするはずだった。

 しかし今日は通っていた中学に足を運んでみることにしていたのだが、わりと近くの大通りを通らなければならなかったんだ。

 事故現場の公園の目の前を通るわけではないから、完全に盲点になっていた。

 というのも、否応なしに公園が目に飛び込んでくるような感じではなく、知ってる人が見れば、公園の広場の部分を囲むように立てられた背の高いフェンスが遠目に見えている程度だったのだから。

 フェンスの一部は事故によって破れてしまい、今は部分的に青いシートで覆われているのが小さく見える。