どこか寂しそうに微笑む花穂を目の当たりにすると、僕は自分のことしか考えていなかったのだと気づいて、自己嫌悪に陥る。


「ごめんね、リョウちゃんの大切な家族のことも忘れちゃってて。思い出せなくて……」

「花穂……」


 自分の家族さえ忘れてしまっていた花穂にとって、おぼろ気にでも兄ちゃんの記憶が残っていた方が奇跡に近いのだろう。

 それなのに、僕の存在を覚えてなかったからって、そんな風に花穂が心を痛める必要なんてない。


「気にしないで。弟はすごくばあちゃんっ子でさ、ばあちゃんの住む隣の県の私立の中高一貫校に進学して、もう長いこと花穂とは会ってなかったくらいだし……」


 口から出た出任せにしては、酷すぎる。

 まず、今通ってる学校がそれなりの進学校ではあるが、僕は兄ちゃんと花穂を追いかける形で受験はしたものの、受かったのが奇跡と言われているくらいだ。

 そんな僕が私立の中高一貫校だなんて、とてもじゃないけど考えにくい。


「そうなんだ……。でもそれでもやっぱり申し訳ないな。また弟さんがこっちに戻って来るときは教えてね」

「ああ」

 それでも全てを覚えていない花穂は、何の疑いもなく僕の言葉を信じている風だ。そんな花穂を見て、僕は余計に罪悪感に似た何かが胸の奥底で蓄積されていくのを感じた。