だから初めて兄ちゃんと付き合い始めたと聞かされたときは、正直ショックだった。

 けれど、同時に憧れの兄ちゃんが相手なら仕方ないとも思えた。


 兄ちゃんとともに祭り会場で事故に巻き込まれた花穂ちゃんは、目立った外傷は見られなかった。

 しかし、今朝目が覚めるまで、かれこれ二週間意識が戻らなかったのだ。


「花穂ちゃんのお見舞いに行ってくるね」


 僕は、中陰壇に立てられた兄ちゃんの写真に向かってそう告げると、家を出た。


 あと数日で八月というだけあって、外界は猛暑に包まれている。

 セミがわんさか鳴く中、等間隔に街路樹が並ぶ通りの先には、まだ午前中だというのに陽炎が揺らめいて見える。


 学校は、つい三日前に夏休みに入っていた。

 兄ちゃんも花穂ちゃんも居なくてもお構いなしに終業式の日はやってきて、無情にも時間は変わることなく進んでいるのだと思い知らされた。

 だから僕にとって花穂ちゃんの目が覚めたというのは、まるで止まっていた時が動き出したような、一縷の希望だった。

 行く手を阻むようなねっとりと絡み付く熱気ももろともせずに、一秒でも早く彼女の病院に着けるように自転車を飛ばした。