「確かにまだ何も思い出せてないんだけどね、何となく自然と手を繋ぎたいなって思ったの」

 無自覚でこれはキツいって……!


「そっか」

 火照る顔を気づかれないように花穂から目をそらす。

 何となくぎこちない返事になってしまって、花穂に笑われた。

 そうしているうちに、すっかり幼稚園の園庭が見えないところまで来てしまっていた。

 *

 近所のスーパーのフードコートで少し休憩を取ったあと、僕たちは昔通っていた小学校に来ていた。

「わー、机も椅子もちっちゃーい!」

 鈴の音のように明るい声を上げて辺りを見まわすのは、花穂だ。

 思い出深い場所に足を踏み入れた花穂がどんな反応を示すのか気がかりだった。だけど、目の前の花穂は楽しそうなので安堵する。その反面、ここに来たことで、花穂が何かを思い出したということは期待できなさそうだが。


 小学校には、幸いにもクラブ活動で学校に出ている先生がいた。卒業生であることを告げたら、わりとすんなり中に入れてもらえたのだ。

 今、校内を一緒に巡回している四十代半ばの男性教師が、兄ちゃんが六年生の時の担任だったというのも大きいかもしれない。


「そりゃあここは一年生の教室だからな。お前らももう、高校生か。時が経つのは早いなぁ」