記憶のカケラを求めて、今日もきみに嘘をつく

 そういや、同じクラスだった花穂と兄ちゃんがうらやましくて、よく兄ちゃんたちのクラスに行っては、自分のクラスに連れ戻されてたっけな……。

 そんなことを思い出しても、これは花穂には話せない僕自身の思い出だ。

 今の花穂の中には僕──柏木将太はいないのだから、こんな話をしたところで混乱させるだけだ。


 あの頃は、まさか兄ちゃんがこんなに早くに死ぬなんて、思ってもみなかったな……。

 花穂に話す思い出を探しているうちに、僕自身が感傷に浸りこんでしまっていた。


「リョウちゃん」


 そんなことを考えているうちに、僕の左手がぎゅっと握られる。

 瞬間、ドキッと胸が跳ねた。


「……え?」

「あ、ダメだった……? 何となくこうしてリョウちゃんと歩いていると、デートみたいだなって思って、つい……」


 驚いた僕の顔を見るなり、決まりが悪そうに僕からパッと手を離して、花穂は頬を赤くする。

 もう、こっちの気も知らないで……。


「いいよ」


 柏木涼太は花穂と付き合っていたんだから、手を繋ぐことくらい当たり前だったはずだ。

 だから僕は遠慮がちに花穂の手を取った。


「でも、嫌じゃないの? まだ僕と付き合っていたことは、思い出せてないんでしょ?」


 不意打ちでドキリとさせられたことにはかわりないから、ちょっとだけ意地悪を言ってみた。

 だけど、それも数秒も経たないうちに後悔させられることになる。