──花穂(かほ)の目が覚めた。

 そう僕の家に連絡が入ったのは、今朝のことだった。

「花穂ちゃんは助かったのね……。良かったね、涼太(りょうた)

 僕の母親は、その話を聞くなり、仏壇のそばに設置された中陰壇の前に駆けていった。そして、僕の兄ちゃん──柏木(かしわぎ)涼太の写真に向かってそう告げる。


 遡ること、今月──七月半ばにさしかかる頃。お祭りの会場だった近くの広場に、乗用車が突っ込んだ。その事故により、兄ちゃんは亡くなった。

 高校二年生だった。

 人生十七年だなんてあまりに短すぎると、親戚の誰もが無念さに嘆いた。

 それもそうだ。頭脳明晰、運動神経抜群、品行方正の兄ちゃんは、当たり前のように将来を期待されていたのだから。

 歳もひとつしか違わず、同じ格好をすれば双子と間違われるくらいに似ているというのに、僕とは大違いだ。

 そんな兄ちゃんは、いつも常に僕の前を歩く目標でもあり憧れの存在でもあった。

 花穂ちゃんは、近所に住む僕と兄ちゃんの幼なじみの女の子だ。

 そして、兄ちゃんの彼女でもある。

 可愛くて面倒見のいい花穂ちゃんは、ぶっちゃけると僕の初恋の相手だった。