「それならさ、もう少し待っててほしいの」

「……え?」


 どういうことだろう?

 目を見張る僕に、花穂は困ったようにまゆを下げた。


「正直さ、記憶を取り戻すまではショウちゃんのことをリョウちゃんだと思い込んでたところがあったし、私自身、自分の気持ちがよくわからないの」

「そっか……」

「最低だよね」

「いや、そうさせたのは僕なんだし。混乱させて、ごめん」


 そりゃ花穂は元々は兄ちゃんのことが好きだったんだし、目が覚めて好きになった相手も兄ちゃんだと思ってたんだから。

 あとから、実はその正体は弟の僕だっただなんて言われて、そんなの混乱するなっていう方が無理がある。


「ううん。でもね、だから少し時間がほしいの。ありのままのショウちゃんと、ちゃんと向き合っていきたい」


 ありのままの、僕と?

 それはすごく嬉しくもあり、怖くもある。


「そんなに不安そうな顔しなくても、悪い結果にはならないと思うから。……いい、かな?」


 もう、そんな言い方されたら、期待してしまうじゃないか。

 でも、もしありのままの僕と向き合った上で、僕のそばにいることを選んでくれるのなら、僕は兄ちゃんができなかった分も花穂のことを幸せにしていきたいと思っている。


「もちろん。期待して待ってる」

 僕が笑うと、花穂も恥ずかしそうに顔をほころばせる。

 僕たちの新しい関係は、まだ始まったばかりだ。



《END》