『今年もリョウちゃんとショウちゃんと三人で行こうよ、お祭り!』

 夏祭りでさえ、そんな風に花穂は無邪気に笑って僕ら兄弟に言ってきたのだ。


『付き合ってるんだから二人で行ってきたら? 僕は高校生にもなって夏祭りって気分じゃないし』

 そのとき僕の隣にいた兄ちゃんに思わずそう言ってしまったのは、紛れもない僕だ。

 そのくらい、二人はなかなかデートというものをしていなかったように思う。


 結果、二人を送り出した夏祭りで事故に遭って今に至るのだから、現実は残酷だ。

 あのとき、二人のお邪魔虫だということを分かっていながらもついて行っていたのなら、今も二人は幸せに笑っていたのだろうか。

 やっぱり事故に巻き込まれる運命だったとしても、兄ちゃんじゃなくて、僕が犠牲になることだってできたかもしれない。


「……リョウちゃん?」

 不意にかけられた言葉で我に返る。

 声の聞こえた方を見ると、少し不安げな表情でこちらを見ている花穂と目が合った。

 そうだ、記憶探しの旅の話をしていたんだ。


「あ、ごめん。いいよ、やろうか、記憶探しの旅」

「……ありがとう」


 思い出の地を巡ることで、果たして花穂の記憶のカケラをつかめるのかはわからない。

 だけど、やる価値はある気がした。

 花穂のためだけじゃない。

 きっとそれは、僕自身のためにもなるような気がした。