「だってそうでしょ? ただでさえリョウちゃんが居なくなって辛いのに、私が記憶を取り戻すまでの間、そばで支え続けてくれていたショウちゃんまで離れていっちゃうなんて、寂しいに決まってるじゃん」

「花穂、ちゃん……」

「その呼び方も嫌。前はそうやって呼んでくれてたけど、今は何だか突き放されてるみたいで……」


 僕をまっすぐに見つめて、花穂ちゃんは寂しそうに微笑む。


「そんなことない、けど……」


 僕はまた、今度は将太として彼女のことを花穂と呼んでいいのだろうか。

 何だか僕という存在を受け入れてもらえたみたいで、こんなときだというのに胸が熱くなった。


「それに記憶をなくしてた私に、ショウちゃんは言ってくれてたじゃん。ずっと僕はそばにいるって。あれも、嘘だったの……?」


 言った。確かにあれは、僕自身の嘘偽りない気持ちだった。

 花穂の記憶が戻ってからは、花穂に嘘を重ね続けた後ろめたさで頭がいっぱいで、そんなこと望めないと思ってた。

 そんな僕に対してそう言ってくるということは、花穂はそれでも僕を必要としてくれているのだろうか。


「嘘じゃない。……でも僕は、兄ちゃんの代わりにはなれない。記憶をなくしてる間に花穂が言ってた通り、僕は兄ちゃんみたいに器用じゃない。それに頼りないし、勉強だってそこそこだし……」


 兄ちゃんと比べるのはやめにすると僕自身に誓って髪まで切ったというのに、自分の口から出る言葉に内心呆れる。

 でも、こればかりは事実なんだから仕方がない。

 そんな僕に、花穂はあはっと軽く笑った。

 こっちは大真面目に話しているというのに。