特に会話が交わされることなく、花穂ちゃんの家の通りまで来てしまった。

 といっても、さっきの祭り会場になった公園までも徒歩十分くらいだ。

 彼女の家の前まで送り届けて帰ろうと思っていたのだが、不意に花穂ちゃんは足を止めた。


「……どうしたの?」

 もう花穂ちゃんの目に涙はなく、さっきまで聞こえていた鼻をすする音も落ち着いたようだ。


「……ショウちゃん。やっぱり気にしてる?」


 ドクンと胸が音を立てた。

 気にしてる、っていうのはやっぱり──。


「私の記憶が戻るまでの間、リョウちゃんとして私に接してくれていたこと」

「……えっと」


 そりゃ、気にするだろ。

 いくら花穂ちゃんの記憶が戻ればと思ってしたこととはいえ、僕は花穂ちゃんの記憶が戻るまで嘘をつき続けていたのだから。


「……一応、この前も言ったんだけどな。気にしなくていいって」

「ごめん……」


 確かに言われたけど……。

 花穂ちゃんは優しいから、僕のことを思ってそう言ってくれただけかもしれないし。

 目の前の花穂ちゃんの目を見ることが出来ず、思わず視線を下に落としたとき、ぽつりとつぶやくように花穂ちゃんが告げた。


「……私は、寂しいよ」

 その声に弾かれるようにして再び花穂ちゃんに視線を戻す。